10年前との変化は?日系企業離れの実態は?タイのものづくり現場の実情をリアルに視察!!多くの学びを得た海外視察に 部会結成25周年記念海外視察(2025.9.3~7)

■はじめに■
2025年9月3日(水)夜~7日(日)朝、部会結成25周年記念海外視察でタイへ行ってきました。JAM電機部会では5年ごとの周年行事として労使で海外視察を実施しています。今回は10年前の15周年記念時に行ったタイを視察先に選定し、10年前との変化、日系企業離れが言われるようになったタイのものづくり現場の実情を視察すべく、ものづくり人材を育成する現場である現地の工業大学、そしてその人材が活躍する現場である三菱自動車タイランドの2か所を訪問しました。
今回の視察には部会加盟企業労使から21名(労側19名、使側2名)の方が参加しました。
以下に写真と個人の所感で視察の様子を振り返ります。

■スケジュール■
9月3日(水)
・各地より関空・羽田の各空港へ
・[関西空港]24:55 JL727便にて空路バンコクへ
・[羽田空港]25:20 JL033便にて空路バンコクへ

9月4日(木) ~ 5日(金)
・タイ・スワンナプーム国際空港にて合流し、貸切バスで移動
・泰日工業大学(バンコク)訪問
・三菱自動車タイランド(チョンブリ・レムチャバン)訪問
・移動、市内見学(観光)

※宿泊ホテル
(バンコク)Le Meridien Bangkok
(チョンブリ・パタヤ)Sunbeam Hotel Pattaya

9月6日(土)
・市内見学後、スワンナプーム国際空港へ移動
・22:05 JL034便にて空路羽田空港へ ~9/7朝到着後 解散
・24:25 JL728便にて空路関西空港へ ~9/7朝到着後 解散

■参加者■
<労側>15単組・19名
<使側>2企業・2名

■今回の海外視察について■
視察先は、電機部会としては前回に続いて構成単組(企業)の拠点も多く存在するタイになりました。前回10年前(2015年)のタイは、日本でも大きく報じられた軍事クーデターや大洪水など大きな出来事はあったものの、当時に海外視察に行かれた人々の感想からは、ものづくり現場における不安のような声は聞かれませんでした。
しかし近年タイでは「日系企業離れ」が起きていると言われています。もともと日系企業のタイへの進出が加速したのは1980年代で、当時のタイの人々にとっては「給料が高い日系企業は憧れの就職先」と言われていましたが、10年前位から「国立大学の学生が日系企業に入社したがらない」など「日系企業離れ」の兆しがみられるようになりました。そこで実際にはどうなのか。10年ぶりにタイのものづくりの教育現場である「泰日工業大学」およびその人材が活躍する現場である「三菱自動車タイランド」を訪問し、現地のものづくり現場の実情をリアルに視察してきました。

■視察先① 泰日工業大学■
泰日(たいにち)工業大学(TNI)は、「学問を発展させ、産業の振興に寄与し、経済・社会に貢献する」を理念とし、日本的「ものづくり」思想のもと、専門能力、英語・日本語力、ビジネス実務など社会人基礎力を重視し、実践的な技術と知識を兼ね備えた学生を育て、主に在タイ日系製造企業に人材を送り出している大学です。タイの産業構造、タイ人学生の価値観が時代とともに変化する中で、日本的「ものづくり」人材をどのように教育しているのかを知れる良い機会になりました。

●得られた知見
・2025年の学生数は約3,500人、一番多い時は4,300人(2018年)。うち工学部は850人、情報工学は1,150人、経営学は1,000人。
・新しく創設した学科として、半導体工学が2026年からスタート。AIも計画中。
・主に工学部が「日本スタイルのものづくり」を学ぶ場。工学部の中に機械工学科がなく自動車工学科を設置してトヨタ自動車と連携し自動車のものづくり人材を育成。技能の基礎技術から最新技術までを学ぶ。
・タイの他の国立大学の工学部では、学生もクーラーの効いた涼しい部屋でコンピューターを使って設計をするのがエンジニア、現場で働くのはワーカーという意識が強い。泰日工業大学ではまずはワーカーとして現場の技能を学び身につけてからエンジニアとしての最新技術を学ぶ。どちらかというと高専、工業高校に近いところがある。
・日本語履修が必須。学内には日本語が点在。
・就職率は100%。就職先は在タイ日系企業:45%以上。主に工学部の卒業生。欧米系企業も最近増えてきている。中国、韓国系は5%程度にとどまっている。
・タイの日系企業離れは泰日工業大学においてはあまり感じられない。日系企業の魅力は変わっていない。給料を求める学生は欧米系・中国企業、安定を求める学生は日系企業を選択する。親世代を含めてまだまだ安定志向の学生が多く日系企業は人気。

・日系企業は働き方についてもタイ人を日本からの出向者と同じように扱うように配慮されているところが多い。長時間労働にもならないように配慮されている。ただ昇給や昇進が欧米系・中国企業と比べると遅いので人材が流れ出していることは懸念される。そういった意味で最近は日系企業同士で人材を取り合う動きもでてきている。

■視察先② 三菱自動車タイランド(MMTh)■
三菱自動車タイランドはチョンブリ県レムチャバンに位置し、三菱自動車の海外最大の生産工場です。そもそも自動車産業は100年に一度の大変革期と言われています。タイでも脱炭素化に向けた政府主導で電気自動車(EV)の普及が進んでおり、そこで中国EVメーカーが急伸、欧米自動車メーカーもEVで攻勢をかけており、さらには最近ではトランプ関税の影響など、先行きが見えない要素が数多くあり、タイにおいても自動車産業は「激変」の最前線です。構成単組(企業)をはじめJAMの中でも自動車関連の事業を手掛けているところも数多くあるため、タイのものづくり現場の実情を視察する企業としては最適であったと思います。

●得られた知見
・MMThは、第1、2、3工場(車種別車体組立)とMEC(エンジン組立)の4つの工場からなる三菱自動車における海外最大の生産工場。
・日系自動車メーカーのうち、タイ国内販売をメインにしているのがトヨタ自動車といすゞ自動車。三菱自動車は輸出をメインとしている。主力輸出先はオーストラリア(オセアニア)やフィリピン(アセアン)。
・タイでの自動車の輸出入はレムチャバン港からしかできない(バンコクは海が浅く、大きな船が接岸できないため)。MMThはレムチャバン港にほど近く(3.5km)、完成車はキャリアカーを使わず自走で工場から搬送できるのもメリット。
・中国EV車の攻勢(低価格、値引き)で、コロナ以降タイ国内販売の日本車シェアが9割から7割まで減少。危機感をもって、三菱自動車としては強みであるHEV車を中心に巻き返していこうという機運を高めている。
・安全性の観点では、現地スタッフが自主的に啓蒙ビデオの作成やカラクリの工夫などを行い、安全性の向上や作業効率の改善に取り組まれており、その高いモチベーションに感心。
・溶接工程においてはロボットが95%を担い、残る5%をあえて人の手作業。技能継承の観点からあえてそうしている。
・安全性・不具合管理として人的ミスを無くすためAIを活用するなど時代に合わせて様々な改善の取り組みを行っている。
・従業員の女性比率は17%程度とのこと。派遣社員(期間限定)から正規切替で一時期よりは減った。
・現地スタッフは活き活きとやりがいを持って働いている印象。駐在員の方々からの丁寧な、かつほんとうに熱意のこもった説明からもご活躍されていることを感じた。

■海外視察に参加して(松本所感)■
泰日工業大学訪問では、学長や副学長の踏み込んだお話を聞くことができた。まず就職先の45%は日系企業ということで、タイでの日本離れが著しいと言われているが、教育現場においてはまだまだタイにおける日本のイメージは悪くないようである。日本スタイルものづくりの教育、日本語の全員履修、日本文化や日系企業に触れる機会も多い泰日工業大学ならではのことなのかもしれないが、人材育成や福利厚生を含めたまだまだ残る終身雇用の日本型経営がタイ人には魅力的なプレゼンスなのであろう。「タイではまだまだ安定志向を求める親世代も多い、安定志向が強い学生は日系企業へ、昇進志向が強い学生は欧米・中国企業へ まだ日本は捨てたもんじゃない」という学長の話が印象的であった。日本スタイルものづくりの教育というのは、日本でいう工業高校や高専での教育体系であり、こと泰日工業大学の位置付けは工業高校以上高専未満という感じか。技能の基礎をしっかり学びものづくりの現場ですぐに実践できる人材を育成するということであり、そのまま日系企業の即戦力として活躍できる流れということだろう。
三菱自動車タイランド(MMTh)の工場見学では、なによりも第一印象として、とにかくローカルスタッフも日本からの出向者(駐在員)も、ものづくり(クルマづくり)に誇りとやりがいをもって働いておられるんだなという印象を受けた。とくにタイ人における日本の魅力は「ものづくり」であるということなのだろう。広大な敷地の中で、車種ごとおよびエンジン製造工場をそれぞれ持ち、各工場にまっすぐな製造組立ラインの長さ、製造したクルマは、自走して港へ運び船で輸出するというさすがは三菱自動車の最大工場であるということにまず圧倒された。また駐在員の方々から工場内を懇切丁寧にご説明していただき、よく来てくれました!という気持ち溢れるおもてなしに感銘をうけた。日本から遠く離れた地でご活躍されている姿をみていて、自単組でも駐在員から直接声を聞くため現地へ行く重要性を感じた。教育現場だけではなく、実際の働いている現場においても、日本離れというのは感じられなかった。

■さいごに■
今回の海外視察を通じて、参加者一人ひとりが多くを学び心から楽しんでいただけたものと思います。そして一連の行程を共にする中で、参加者同士の絆や部会の結束がより高まったものと思います。まさに「まじめさ・楽しさ盛り合わせ」のてんこ盛りの電機部会らしい海外視察になったのではないでしょうか。今回の海外視察を節目に、これから益々の部会発展を祈念いたします。引き続き、ともにがんばりましょう。
今回の海外視察は、三菱自動車三菱ふそう労連さま、三菱自動車工業労働組合京都支部さま、神戸マツダ労働組合さま等、産別を超えた多くの労働組合の仲間のご尽力があってはじめて実現できたものだと思います。ご尽力いただいた仲間に部会を代表して心より感謝申し上げます。そして今回の企画・準備・運営いただきましたミヤコ国際ツーリストの野牧社長さま、仁木顧問さまにも感謝申し上げます。皆様、本当にありがとうございました。
(記:事務局長 松本康)

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